JADEC: Japan Ability Development Engineering Center

カルビービジネススクールの抜本的改善:カルビー株式会社への教育支援

本社:東京都北区 http://www.calbee.co.jp/

支援内容

カルビービジネススクール生産技術コース(通称CBS研修)の改善
 (1) CBS研修の問題点と改善の方向の提案
 (2) 研修担当者の養成
 (3) 改善カリキュラムの設計
 (4) 研修の一部実施と教材提供(有償提供および貸与)

支援期間

1996年~2006年

企業側のニーズ

CBS研修は、10年後の現場リーダー(工場長、班長)を育てることを目指して、1991年に開始された人材育成プログラム。対象は、生産業務に関わる3年以上の社員とし、例年全国約10の工場から10名前後が参加して行われている。

研修期間は、ほぼ1年、毎月1週間本社や各工場での研修を経た後、最後に各自の職場での課題とその改善案について研究論文を作成、発表するというプログラムで実施されてきた。研修の内容は「食品化学や加工、設備や技術などの知識を与え、実習をする」という目標で計画され、大学教授や技術の専門家による講義と実習が行われる。学校教育をモデルにした、いわば短期企業内大学ともいうべきものとなっていた。

しかし5年を経て、研修生を出した現場からは「内容が教養的」、忙しい現場から人手を割いて派遣しているのだから「もっと仕事に生きるものに」との要望が強く、研修コースの見直しを迫られた。ちょうどその頃、JADECの公開展示において製造現場マンに対する教育の考え方と具体的な学習システムを知った関係者が、「これだ」と思ったというのが、JADECとの縁の始まりである。

支援活動の概要

(1) CBS研修の問題点と改善の方向の提案

 現場で必要な能力は何かを具体的に把握するために、現場の長に対するヒヤリング、現場作業の解析などを行った。その結果、以下のような力を必要としているが、現在は不足していることがわかった。

  ・設備についての基礎技術(特に、電気による制御技術)
  ・問題を問題として見る力
  ・現象から原因を解析していく力

 このことから、目標を具体的な行動として設定するところから教育を作り直し、研修生が自ら研究を重ねていくという研修への転換を提案した。知識を覚える、与えられるという「受身の教育」ではなく、自ら課題に挑戦し、経験を通じてつかむという「主体的な教育」への転換を目指すことを提案した。

(2) 研修担当者の養成

中核となる研修担当者1名には、JADECが行っているセミナー「学習システム設計者養成セミナー」(10日間、定員10名)の受講をつうじて、主体的な教育とはどういうものか、その理念と方法を指導した。目標行動の分析からはじまる学習システムの設計・学習実験・評価、さらに学習指導の方法などを体験を通じてつかんでもらった。

さらに、主体的な学習のエッセンスを短時間でつかんでもらう工夫によって、補助スタッフを育てた。

(3) 改善カリキュラムの設計と教材開発

カルビースタッフと共同して、以下のようなカリキュラム及び教材(プログラムテキストとシミュレータ)を開発した。

◆製造プロセス技術としての学習(4週間の間に4回)
(1)製品製造技術の基本 ・えびせん製造技術
 製造原理をつかむテーブル実験、現場設備解析、品質向上のための研究
・ポテトチップ製造技術
 製造原理をつかむテーブル実験、現場設備解析、品質向上のための研究
(2)各種製品の製造技術の基本、製造システムの研究 ・物質収支、熱収支の技術
カルビー
えびせんの製造原理をテーブル実験
カルビー
えびせんの製造原理をテーブル実験
◆設備技術としての学習(3週間)
(1)設備技術の基本
 電気の基礎,実践(選択)
・電気の基礎(回路の設計と作成)
 ランプ点滅、自己保持回路とタイマー、カウンタ回路

・シーケンスの基礎(回路の設計と作成)
 エアシリンダ制御の回路
・PC(プログラマブルコントローラ)による制御の基礎、実践(回路の設計と作成)
 エアシリンダ制御・コンベア制御の回路
・センサーの研究(光電管センサの特性実験など)
  *以上は、能力開発工学センターが開発した「電気・シーケンス制御入門教材」利用
・現場設備での動作解析、故障発見、改善トレーニング
(2)その他の技術 (選択) ・フィードバック制御技術入門
 (電熱器温度コンロールシステムの実験)
・機械技術など
カルビー
電気・制御システムの学習
カルビー
工場にある部品で回路を
カルビー
現場機器を調査
◆研究方法、問題解決方法としての学習
(1)「研究の進め方」の学習
 ケーススタディによるトラブル対応
・なぜなぜ分析、ロジックツリーの基本(事例)
・トラブル事例による研究(包装工程のトラブル例)
 現状把握、原因分析、仮説・検証、対策案、報告作成、発表までを経験。
 現場データ、現場映像、模擬現場装置教材を利用
(2)解析、分析手法(QCなど)の学習 ・パレート図、ヒストグラムの作成
・表計算ソフトによるデータ分析
(3)海外研修(企業活動調査研究) ・環境問題対応などテーマを持って、企業活動の調査
◆課題研究(卒業研究)
・現実の現場の課題を取り上げて、
 テーマ設定から、調査・分析、仮説・検証、論文(報告書)作成、発表までを行う。
・研修生各自の現場の課題を題材に、上司および社内の技術部門の指導も受ける。
カルビー
現場映像を見て分析
カルビー
模擬現場装置で原因追究
カルビー
原因追及のロジックを整理

(4) 研修の一部実施と教材提供(有償提供および貸与)

研修の実施に関して、計画から実施、評価に至る過程をカルビースタッフと共同するという形でサポートした。「設備技術としての学習」の大半は、JADECが開発した「電気・シーケンス制御入門シリーズ」を利用したので、研修もJADECスタッフが担当した。教材は貸与および一部は有償提供した。

その後の展開

CBS研修のカリキュラムを改善した結果、「経営環境、製造環境が以前に比べ厳しくなってきているにも関わらず、応募がスムーズになっている」(担当者の報告)とのことで、研修生および研修生を送りだす職場に、研修に対する理解が広まったと言える。

その後、さまざまな場で現場力の必要が叫ばれ、現場の一人一人が、品質・コスト・納期を管理する能力を持ち、またそれらを統合した現場マン集団としての力を発揮できなければ、市場で残る製品は作れないという状況になってきた。現場マンといえども、単にものを作っていればよい、という状況ではなくなったと言える。

このような状況に応えて、カルビーにおいても、新たに改善・改良の実力を向上させる「論理思考のトレーニングコース」(3~5日程度)を開発するなど、真に実力ある現場マンの育成、それによる確実な技術継承をめざした取り組みが引き続き行われている。