大阪市淀川区
http://www.osakagas.co.jp/company/press/pr_2007/070531_1.html
教育担当者の養成(学習システム設計能力および指導能力)
1969年~1973年
<元大阪ガストレーニングセンター所長 佐藤行一氏の報告*より>
大阪ガストレーニングセンター(現人材開発センター)は、1968年大阪ガスならびにサービスチェーン、工事会社が顧客の信頼と繁栄を勝ち取るため、従業員の訓練施設として開設したものであります。当初の訓練方針はTWIのJI(Training Within Industry-Job Instruction:監督者訓練)を基本とする考えを主流とし、実習に徹し、知識技能を体得するというものでしたが、トレーナー間の格差の解消と、受講生の意欲をかき立てる訓練方法の開発が課題でした。
いろいろ調べた結果、1969年秋、能力開発工学センターの「学習システム設計者養成講座」(10日間の宿泊セミナー)を知り、受講。学習システムの基本となる考え方と、矢口新先生の道元の研究者としての深遠な思想や、教育改革へのたゆまぬ情熱の一端に触れ、敬服いたしました。以後、上司の理解を得て当時のトレーナー全員がこのコースを受講し、開講回数の多いコースから順次プログラム学習方式に改訂していきました。トレセン来訪者には、プログラム学習と1人1台の実習機材を使用しての訓練は興味深く、恵まれた社風と環境は大いにうらやましがられました。
1972年、大阪ガスは都市ガスの原料を天然ガスに転換する計画を発表し、社運をかける大事業を実施することになりました。ガス製造供給設備の改革も大事ですが、中でも全顧客(約500万戸)の所有されるガス機器を、調整員が個別に訪問して行う調整作業はきわめて重要な業務であります。調整員一人ひとりの技術と態度が、お客様の安全と会社の信頼に直接つながることになります。
トレセンとしては、さまざまな作業の場で状況に応じて、完全に業務を遂行できる知識・技能・態度を身につけた調整員を送り出さなければなりません。そこで、
(1)「現場の仕事(調整員の行動)」を土台とした実戦的な訓練
(2)調整員一人で、ガス機器の調査から安全の点検、調整までさまざまな仕事を遂行できる、オールラウンドプレーヤーの養成
(3)すべての学習者が、主体的に技をみがき、期待される技術水準に到達できる訓練システム
を調整員教育の基本的な考え方として、教育訓練目標を策定しました。
調整員教育のために新規に作られたプロジェクトチーム10名は、全員が能開センターの「学習システム設計者養成講座」を受講、セミナーを通じて学習システムについての考え方を習得。1973年7月「機器調整員訓練コース」開発を開始した。
全員、使命に燃え全力を尽くして、約1年で、1万ステップ43日間コースの150種類のテキスト30セットとシミュレータ,実物教材を完成させました。
*「仕事に打ち込む技術者の形成」JADEC研究紀要33号(1975)所載
小型機器の調整実習 |
大型機器の調整実習 |
調整作業の総合演習 コースの最終段階。トレーナー(右)は 家庭の主婦に早変わりして、いろいろ質問する。 訓練生は、資料を見せながら説明に汗をかく。 |
課程 | 科目 | 日数 |
基本課程 | オリエンテーション 天然ガス転換計画の概要 機器調整の基本 天然ガスの性状と燃焼性 バーナのしくみと種類 炎の安定性と燃焼条件 調整の必要性と基本作業 調整作業の基本手順 補習 |
3日 |
スキル課程 | 筆記テスト 機器調整作業の急所(1) (12項目) ノズル縮小と炎孔拡大の決め方 インサートの挿入と取り外し方 ビス・袋ナットの取り外し方取り付け方 パイロット導管の曲げ方 汚染機器の分解組み立てなど 機器調整作業の急所(2) (7項目) もれ検査 圧電点火の調整 電池点火の調整 ガバナ調整 サーモリーク調整 CO検知 燃焼の確認 補習・体育 |
4日 |
調整実習過程 | 筆記テスト 小型機器の調整(必修19機種,選択6機種) コンロ類 炊飯器 焼物器 ストーブなど 実技テスト・補習 |
6日 |
湯沸機器の調整(必修18機種,選択6機種) 実技テスト・補習 |
6日 | |
風呂機器の調整(必修16機種,選択6機種) 実技テスト・補習 |
5日 | |
大型機器の調整(必修10機種,選択5機種) 実技テスト・補習 |
4日 | |
業務用顧客の特性 一般業務用機器の調整(必修17機種,選択4機種) 実技テスト・補習・体育 |
4日 | |
総合演習課程 | 調整作業要領 3日間の作業手順(調整作業要領) 部品と帳票の処理 検針 パージ 調整指示書の見方と記入方法など 調整作業の総合演習 接遇応対 調整 パージ 検針 業務処理など 実技テスト・補習 |
6日 |
機器調査課程 | 機器識別ハンドブックの使い方 機器調査要領 機器調査の総合演習 実技テスト・補習 終講式(座談会) |
5日 |
計 | 43日 |
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天然ガス転換調整員の教育(16分) |
○転換作業の現場の声(天然ガス転換部副所長)
転換部では、昨年10月以来、次々とトレーニングセンターでの訓練を終了した調整員を受け入れて来た。
転換作業開始後わずか一カ月であるが、全調整員のモラールは実に驚くほど高いものであり、まさに、炎のごとく燃え上っているといっても過言ではないと確信している。
最大の原動力は、全社あげての強力なバックアップ体制のもとに、調整員一人ひとりの心に刻み込まれた使命感、責任感であろう。
実践における技術面については、トレーニングセンターにおいて、43日間にわたり調整技術を身体で覚えるよう、できる限り現場に近い想定に基く、実戦的な訓練をみっちり受けているだけに、その基本は徹底して身についているものと高く評価している。
トレーニングセンターでの教育訓練終了後、相当の人は、トレーナーとしての活動を通じて可成り復習するチャンスはあったとはいえ、現場実戦作業に入るや、基本通りの作業を自信を持って進めるに至るのが、予想外に早く、殆ど大多数の者が、まず平均の仕事量をこなすようになった。そして、この1カ月の間に、全員の平均レベルはグングンと向上している。
また、毎日の調整作業を通して、できるだけ異なった機器に接し、より多くの知識とより高度な調整技術を体得しようという意欲的な姿勢を示すものが非常に多く見受けられる。
<前掲JADEC研究紀要33号(1975)より>
○転換事業後のトレーニングセンター(佐藤行一所長)
天然ガス転換機器調整事業はおかげをもって、16年後の1990年に無事故で終了しました。16年間で調整機器台数2300万台、この間の調整員二千数百人全員が、このシステムで勉強しました。なお、このシステムは、同業他社(十数社)の調整員教育のベースにもなっています。
一方、プログラム学習方式は、情報化の機器の発達とともに、新たな進展を見せてきました。大阪ガスではコンピュータの力をフルに活用した研修方法である、いわゆるCAI方式の導入を決定しました。これは、プログラムテキストをすべて端末のディスプレイに表示できるようにし、研修生はキーをたたきながら学習を進めて行くものです。インストラクターは、中央の操作卓を見ながら、研修生個々の進度をつかみ、全体の管理運営を進めていくしくみになっています。
現在、CAIによるコースは「ガス設備点検コース」など21コースありますが、今後もますます増加していくものと思われます。研修ツールは技術革新,情報化時代の進展により今後も変遷していくことでしょうが、能力開発工学センターの矢口教育の理念は今も脈々とトレーニングセンターに息づいています。
<「矢口先生の教え」アドバンスサロン27号“明日をひらく教育に情熱をそそいで”(1991)より>