JADEC: Japan Ability Development Engineering Center

1995 企業革新を担う挑戦・開拓する人材をどう育てるか

開催月日

1995年3月10日

開催場所

国立教育会館(東京都港区虎ノ門)

開催趣旨

 アジアの時代を迎えて、これまでにもまして日本の役割と責任が大きくなってきています。こうした新たな環境に対応すべく、産業界は新しい理念を持ち、創造的実践力・企画力、さらにリーダーシップなどを持って課題に取り組む有能な人材を強く求めています。
 企業は、今こそ本物の教育によって人材を育成しなければならないのです。当センターは、20数年にわたって、主体的創造的能力を育てるという見地から、人間育成の方法について、具体的な学習システムを研究開発し、そして実践してまいりました。
 その成果は、オートメーション化の激しい製造業の転換教育、ガス業界の天然ガス転換事業に伴う調整員教育、理容・看護・自動車運転など職業技術、コンピュータについてはリテラシーからシステム設計技術にいたる全体にわたっての教育に適用され、効果が実証されています。
 これらの経験から、私どもは、人間を育てることの基本的コンセプトは、学習者が主体的に行動(学習)する場を設けることによって、学習者の脳の働きを育てるということだとの確信に至っています。つまり人間は、行動の場におかれて主体的に行動することで、主体的創造的能力を育て発揮するものなのです。現在企業が求めている挑戦・開拓する人材の育成についても、この考え方が十分適用できます。今回は、当センターが開発した具体的な学習システムおよびカリキュラムと、企業での教育実践の具体例を材料に、主体的創造的能力を育てる場の作り方について考えてみたいと思います。

プログラム

1.ビデオと研究報告

 能力開発工学センター

2.実践報告

 フジ製糖(株) 富士ゼロックス(株)

3.オープンディスカッション

 「主体的創造的能力の開発を目指して」

<コーディネータ> 奥田健二 上智大学経済学部教授
<話題提供者> 石田宏平 フジ製糖(株)環境管理委員会事務局長
吉野博弼 富士ゼロックス(株)運動推進室理事
安田 浩 能力開発工学センター常務理事

ビデオ・研究報告(第1部)の概要

1.ビデオ「人間の行動を観る・育てる-行動分析と学習の場」

<能力開発工学センター>

 人間の行動とはどういうものか。また、行動を育てるとはどうすることか。これらについて脳科学の視
点で紹介したものである。昨年は、学習観の転換をテーマとした「明日を拓く教育を創る-主体的行動力の形成」を作成し、多くの方に評価していただいたが、今回のものはその第2弾。
 今回は、人間の行動をとらえる視点として、脳の働き(回路)として見る考え方と、その回路を作る学習の場を具体事例によって紹介する。

2.すべてのユーザーが持つべきシステム構築能力(システムリテラシー)をどう育てるか その3

<能力開発工学センター 研究開発部長 矢口哲郎 主任研究員 白尾彰浩>

 情報システムを真に有効に設計・活用するためには、ユーザー側の管理者,システム担当者,運用者など、システムに関わるすべての人が「システム構築能力(システムリテラシー)」を持つことが重要である。当センターは過去4年にわたって、それをどう育てるかについてシステム導入の現場に即して研究を行ってきた。今回は、最終段階として、これまでに設計したカリキュラムに基づいて開発した具体的な教材を提案する。
 具体的な学習の場として、パソコンによる卸売業のシステムの改造を課題として、業務の分析,システム設計,システム開発,システム運用などの基礎的力から応用する力までを育てる段階を提案する。パソコンRDB(*注)によるシステム,ビデオ教材やシミュレータ教材などを利用する学習システムである。

3.コミュ二ケーション教育のカリキュラム編成の考え方-看護の場を事例に

<同 主任研究員 矢口みどり 叶内盈子>

 今、看護の現場では、看護婦のコミュ二ケーション能力の不足が問題になっている。コミュ二ケーションという行動の本質は、単に言語表現の問題ではなく、相手の状況を読み取り、また自身の状況を相手の胸に届かせるというところにある。基本的に主体的な行動なのである。
 ところが、看護婦を育てるべき教育の現場(看護大学,看護専門学校,医療技術大学など)では、人間関係が希薄で他人に無関心で会話はおろか挨拶も満足でない学生・生徒が増えつつあり、そうした中でコミュ二ケーション能力をどう育てていくかということが大きな課題になっている。
 このようなコミュ二ケーション能力育成の問題は、看護界ばかりの問題ではなく、現代社会における共通のテーマと言える。そこで、このコミュ二ケーション能力育成の問題について、行動分析による行動能力の把握から行動形成カリキュラム編成の考え方を紹介する。
 合わせて、行動分析に基づいた学習システムの具体事例として、コンピュータを利用した「採血」の学習システムを紹介する。

企業における実践報告(第2部)の概要

1.意欲を持って働く現場マンをどう育てるか(新入社員教育)

<フジ製糖(株)環境管理委員会事務局長 石田 宏平>

 フジ製糖においては、設備の自動化の進む生産現場で「意欲を持って働く現場マン」を育てることを目標に15年前から教育訓練を行っている。大げさで形式的な掛け声ではなく、実質的な予防保全に力を入れるとともに、現場の力で保全管理にコンピュータネットワーク(LAN)を作って実績を上げている。
 新人教育としては、高卒の新人を6か月で一人前のオペレータとして保全までできるように、また仕事に誇りを持てるように育てている。その秘密は、3か月の基礎教育(OffJT)と3か月のOJTにあります。教育スタッフの数は決して多くないが、自社で開発したシステムを十分に活用して成果を上げている。新人が意欲を持って働くようにする教育をどのように行っているのか、その目標・体制・内容・教材などについて、実践の様子とその教育支える職場での仕事のしかたなどについて、実際に教育指導に携わっている立場から報告する。

2.個を尊重する社員教育-ニューワークウェイを支える教育の展開

<富士ゼロックス(株)ニューゼロックス運動推進室理事 吉野 博弼>

 富士ゼロックスでは、知的創造力時代に向けての企業文化の革新をめざして、「ニューワークウェイ運動」を5年余にわたって展開、現在も継続中である。これは、「会社中心」から「個の尊重」への転換による「新しいゼロックスづくり」の運動で、社内のコンセンサスづくり、ビジネス環境の改革などが勢力的に進められている。
 こうした運動の中で、「教育カタログ制」による社員教育を実施している。目標とする人材として、「自立したプロフェッショナ人材」「感性豊かなクリエイティブ人材」「共感を呼ぶマネジメント」「異質な価値を相互に認め合えるグローバルな人材」などを掲げて、それを具体化するための教育が実施している。その教育体系の背景及び具体的な状況について報告する。

オープンディスカッション(第3部)のねらい 

企業革新を担う、挑戦・開拓する人材をどう育てるか
  -主体的創造的能力の開発をめざして-

 企業が求める新しい理念をもち、創造的実践力・企画力・リーダーシップをもって課題に取り組む人材の育成について、フロアの参加者も含めて全員で検討する。さらに、単なる会社人間としてではなく、社会hwの広がりをもって「主体的に行動する人間」として育てるには、仕事のさせ方,教育のあり方をどう変えるべきか、それはどうしたら成り立つか等について話し合う。