JADEC: Japan Ability Development Engineering Center

CAI:航空管制の基礎

開発年

1976年

開発の経緯とねらい

 本システムは、1973~75年度における科学技術庁の特別研究調整費による「安全行動形成の方法論の研究」の成果として生まれたものである。科学技術の急速な発展に伴って高度化(高速、複雑、巨大、高パワ-など)している現代社会において安全を確保するための人間の行動をいかに形成するかということに焦点をあてたものであり、研究の対象になる行動類型として、有視界方式による管制行動をとりあげたものである。研究終了後、さらにシステム改善を行い、最終の形となった。
 従来、管制行動に対する教育は、飛行場概論、航空法規、管制通報様式などといった学科と、非常に現場に近い形での実習という方式をもって行われてきたが、学科は実際の行動とは関係なく知識それ自体の体系が出来上がってしまい、実習はいかなる行動に対していかなる測定及び判断を行い、いかなる表現行動を行うか明らかにされぬままに行っているため、実施の場において教育しなおすという能率の悪い体系となっていた。
 本システムのねらいは、行動分析により明らかになった管制官の測定行動、表現行動を、行動形成の理論に基づいて学習のプロセスを設計することによって、カリキュラム編成の考え方及び学習方法論の転換を求めるところにある。
 なお、このシステムにおいて、かなり具体的な時間的空間的イメ-ジとそれにもとづく指示行動としての基本的交信能力が60時間程度で形成できることが確かめられており、実際のベテラン管制官にそれを確認してもらっている。

CAIシステムの構成

 本学習システムは、行動対象となる管制空間をシミュレーションするものとして、学習の最初の段階からCAI方式を採用した。CRTディスプレイの画面に飛行場および管制空間の状況、テープレコーダの音声で航空機のパイロット(または管制官)の交信、そしてスライドに気象情報を提示し、それぞれをコンピュータでコントロールすることにより、行動の対象となる場をシミュレーションする。学習者はその場において、シミュレーションされた状況に対応して交信行動を行う。

記録装置 CRTディスプレイ スライド提示装置 コントローラ
 キーボード

(1)CRTディスプレイ装置

飛行場および管制空間を、動的にシミュレートする。512×512ドットのイメージディスプレイの機能と、64×64キャラクタディスプレイの機能を持つ。17インチ。

〈 附属機能 〉

ライトペン: 学習者の反応入力用に使用。CRT画面上の輝点を指し示すことにより、CRT画面上のアドレス(学習者の反応ポイント)をコンピュータに入力する。
ブザー  : 学習者のライトペンの反応の誤りを知らせる。
キーボード: JIS7単位符号用キーボードに、学習に必要な下記のファンクションキーを付加したもの。
   赤いキー(つぎへ進む)
   聞き直しキー(音声テープをもう一度聞く)
   戻しキー(1ステップ前に戻る)
   やり直しキー(消しゴムの役割)

(2)スライド・オーディオ・ランダムアクセス提示装置

スライド提示部: 静止画像の提示装置で、学習者のキーによる反応によっても提示できるし、コントローラからの命令でタイミングを設定しての連続提示も可能。35㎜ハーフサイズのロール方式で1カセットに256コマまで収納でき、各コマは絶対番地指定により、ランダムアクセスできる。
アクセスタイムは平均10コマ/sec.
音声提示部  : 音声テープには最大254コメント収容できる。
各コメントは絶対番地指定によりランダムアクセスができる。
平均アクセス速度は90cm/sec.

(3)コントローラ

 マイクロコンピュータ(インテル社8080,16KB)とディスケット・ドライブ、および学習端末装置である上記(1)(2)のインターフェースからなる。ディスケット・ドライブは、ダイレクトメモリアクセス(DMA)チャンネルによりCPUにつながれている。転送速度は32bite /μs。
 ディスケット・シート(記憶容量250KB)に記憶させた学習端末装置のコントロールプログラムを、指定した部分のみディスクドライブより読み込ませて使用する。

CAIシステムの全体構成図

(4)CAIシステムを動かすためのソフトウェア

 ソフトウェアの内容には、下記a b c の3種類がある。
  a 学習端末のコントロールプログラム
  b 学習行動の指示プログラム(学習ステップ)
  c 学習行動の対象である管制空間とその状況のプログラム

 a はアセンブラ言語によって作成、ディスケットシートに記録した。(前項参照)
 b はスライドにより提示。
 c については、管制官およびパイロットの交信を音声テープ,気象情報をスライドで準備した。管制空間の位置的状況はCRTディスプレイ上で提示することとしたので、aの学習端末のコントロールプログラムと一体化する形となった。


スライドカセット         音声テープ

(5)補助教材

 CAIシステムを動かすためのソフトウェアとしての教材の他に、管制区間をよりリアルにとらえるための教材としての各種の補助教材を用意した。

円盤は全国各空港の管制圏(滑走路、リポ-ティング・ポイントなどを調べる)
針金は、航空機の離着陸経路をシミュレートしてある
分析および学習の現場とした
調布空港(東京都)の立体模型

学習のコースアウトライン

 学習は、調布飛行場という具体の例を設定、そこにおける管制行動の基本行動を分析、その原則をつかむことによって、あらゆる飛行場における管制行動獲得の原則を獲得するように構成されている。学習は、あくまで交信によって航空機を管制するという行動を中核におき、ごく基本的な要素からさまざまな条件が組合わさっていくまで、段階を踏んで、ラウンド方式で学習をすすめていく。
 I~Xまで、同一スピ-ドの航空機(単発機)の管制行動の学習ユニットが完成しており、その次の段階として、スピ-ドの異なる航空機の管制行動の学習について、XI~XIVでのモデルプログラムを作成した。

シミュレーションされた学習の場面

テープレコーダ:航空機からの交信
(管制官の交信)
CRT画面:管制空間の状況
(管制圏と飛行場)
スライド:気象情報
(風向,風速,気圧)
P: Chofu Tower, this is 5196, over.
〈学習者の交信行動〉
管:5196, go ahead.
(5196機、どうぞ)
円内が半径5Kの管制圏、□は
決められている進入地点を示す。
上部のメモリは、風速計
中央は風速計
左下のQNHは気圧の情報
P: 5196 , over Yomiuri Tower,
request landing instructions,
over.
〈学習者の交信行動〉
管:5196, roger, runway 17,
wind 150 degrees 16,
report on down, wind leg.

(5196機了解。滑走路17風向
150度、風速16ノット。ダウンウ
ィンドレッグに入ったら報告せよ。)

学習の進め方

 学習は、2~5人のグル-プにより行う。各場面に応じて、それぞれが管制官とパイロットの役割分担をし、提示された場において交信行動することになるので、グル-プによる学習が必須の条件となる。また、管制空間の分析、進入経路の判断基準の作成などの学習においては、グル-プによる共同作業としてやることによって、学習時間を効率よく使うことができ、協力の姿勢も育つ。

*本システムは、コントロ-ラを初めとする各種のハ-ドウェアの型式が古く、メ-カ-におけるその機種のメンテナンス部門がなくなり事実上使用不可となったため、当初のハ-ドウェアシステムは廃棄、現存していない.。
学習の具体的な姿は、映像資料のページ、■学習の場の考え方「行動を育てる―脳行動学の視点で(18分)」をご覧いただきたい。