神奈川県平塚市 http://www.hiratsukarou-sd.pen-kanagawa.ed.jp/
1996~97年,2002~03年
「産業界が求める電気知識をどう教えるか」が課題
平塚ろう学校教諭 高橋義雄 中村光慶(1998年)
本校の卒業生の多くは神奈川県内の電気・機械・自動車製造業の企業に就職していますが、近年、県内にある大手製造業の企業では、生産現場の地方や海外への移転で、従来のように聴覚障害者が技能職として働く現場が減少しつつあります。また、既に雇用されている聴覚障害者にも職種の転換を求めるという企業もあり、新規の採用もより高い能力の人を求めて筑波技術短期大学(聴覚障害者のための3年制短期大学)などからの採用をすすめている企業も増えてきています。
本校の卒業生は電気・機械関係の企業に多く就職していますが、電気に関する学習は理科の授業程度で、それも目に見えない電気の学習は、本校の生徒にとっては特に難しい学習です。しかし今後、電気・機械の企業に就職する卒業生には、基礎的な電気の知識は必要になると感じていました。
このような状況を感じつつあるとき、松下電池工業(茅ヶ崎市)の採用担当の方から能力開発工学センターの「電気・シーケンス制御学習」を紹介していただきました。平成8 (1996) 年2月のことです。たまたまその年、神奈川県教育委員会が文部省(当時)の「盲学校、聾学校及び養護学校就業促進に関する研究事業」を委嘱されることになり、さっそく松下電池工業の研修施設「テクノ道場」を見学し、教材導入への動きが始まりました。
この学習教材が、実際に手を動かし試行錯誤しながら自主的に学習を進めるという方式を採っていることに大変興味を抱きました。ろう学校はとかく教師が手が届きやすく、教えすぎる傾向があります。生徒自らが学習していける教材は、今後ろう学校として職業分野だけでなくさまざまな教科で検討すべきだろうと考えています。
(1998年9月発行 能力開発ニュース47号「聴覚障害生徒の就労促進教育」より)
既存の「電気・シーケンス制御入門」の学習システムを、生徒が無理なく学習できるような目標設定と、それに伴う内容の変更、テキストを理解しやすくする工夫を行った。
1)電気の回路図が読める
2)シリンダー,タイマー,カウンターを働かせる回路を組むことができる
学習に興味を持たせるため、学習者になじみのあるもの(バス降車のためのランプシステム:前出写真)を学習対象の制御システムとした。
また、下記の1)2)3)の視点で、テキストの改訂と学習のしかたの工夫をした。なお、この改訂は、能力開発工学センターの支援と指導により、ろう学校の教員が行った。
1)テキストは、ろう学校の生徒にわかりやすいように、文章を短くした。曖昧な表現を避けた。
2)言葉による学習指導の不足を補うため、具体的な補助教材を工夫した。
3)学習者が考えていることを他の学習者や指導者に伝えやすい手段を工夫した。
教材導入に向け、まず担当職員3名が夏休みまでに能力開発工学センターの「電気・シーケンス制御技術セミナー」を受講し、内容の把握と、学習指導のポイントについて学んだ。(教員によるテキストの表現改訂は、このセミナーの後に行った。)
指導している各年、職業科教員全員に対して学習指導に関する講演や、研究会における研究授業についての助言等を数回行った。
電気基礎 I | 電気基礎 II |
専攻科1年(1単位) | 専攻科2年 2単位 |
電気による制御の基礎 1.電源の種類と電圧 2.電流について 3.テスターの使い方 4.ランプをつける回路 5.スイッチの種類とその働き 6.リレーの働きと構造 7.リレーとランプを使った回路 8.リレーを使った自己保持回路 9.総練習 |
リレーを使用した回路の制御 1.自己保持回路とランプ 2.自己保持回路のしくみ 3.自己保持回路の解除法 4.自己保持回路の応用学習 (バスの降車ランプシステム) 5.カウンター回路と自己保持回路 6.カウンター回路と自己保持回路 7.リレーを応用した電子機器の製作 シリンダを用いたシーケンス制御の基礎 |
H 9年度 専攻科1,2年 男子3名 女子3名
H10年度 専攻科1,2年 各1名
学習開始時は、直流と交流の区別も知らない、電圧(ボルト),電流(アンペア)の意味も知らないという状況だった。テキストはできるだけやさしい短い文章にしてあるが、それでも基礎的知識のない生徒たちにとっては難しいようだった。
電流は目で見ることができないので、電気の流れ方がなかなかわからず、負荷とスイッチの結線方法を間違って回路をショートさせることがたびたびであった。なかでも、自己保持回路は難関だった。自己保持するときの電気の流れ方をパソコン画面上でシミュレーションして、理解させるように工夫した。学習が進むにつれて、グループで協力して進めるようになっていった。
2年目になると、テキストを見て自分でできるようになっていた。シリンダ制御の学習では、生徒自身でシリンダーやリレーを使った制御回路を考えて組み立て、結線することができた。
バスのランプシステムは、大変好評だった。
平塚ろう学校教諭 高橋義雄 中村光慶(1998年)
この学習では、わからないことを生徒同士で考え話し合って学習を進めるという場面がよく見られます。
他の作業学習ではこのような場面はなかなか見られません。こういう、生徒自身で自主的に学習しようとする意欲・姿勢が見られることが、この学習の最大の効果だと思っています。特に今年度は、こうした姿勢が他の学習が他の学習にもよい影響を与えていると思えます。ぜひ、今後も続けて生きたいと思います。
今後の課題としては、今年度は強化の単位数や時間割の関係で、産業工芸科以外の科ではこの学習はもてませんでしたが、電気機械の製造業に就職希望する生徒には何らかの形で学習させられるよう調整していきたいと思います。
学習システムについても、より生徒の実態にあったテキストやワークブックにするよう、内容をさらに検討していきたいと思います。
(1998年9月発行 能力開発ニュース47号「聴覚障害生徒の就労促進教育」より)