1972年
本システムは、社団法人日本理容美容センターの委託により、通信教育の学習システムとして開発したものであるが、1975年以降、横浜市立商業高等学校別科(理容科)において、学校の授業の中に取り入れられ、大きな成果をおさめているものである。
本システムを開発するにあたっての課題は、技術の習得という点からより合理的な方式を工夫するということであった。技術の教育においては今もなお学科(理論)と実習(実技)という2分法が殆ど鉄則のようになっているが、この形式に問題があるとわれわれは考えている。
行動というのは、目の前の具体的な対象に対決して、自分の身体と五感を働かせて、神経の働き方を訓練することによって成り立つものである。理論というのは、その行動を後から整理したものであり、行動をする中で考えてこそ、真に理解されるのである。
この考え方に基づいて、理論と実技を行動に統合したのが、本学習システムである。つまり、本学習システムにおいては、いわゆる学科、講義による理論の学習はまったくない。また、技術は本来人間の創造的行動力であるとの認識に立ち、技術を通じて主体的行動を育成することを目指し、技術のあり方を発見していく学習の場作りに力を注いだ。
カッティングというと、「毛を切ること」と考えがちだが、これは「いかに毛を残すかということ」である。どのぐらい切るかではなく、どこの毛をどのように残すかが問題なのである。
写真①は、ハーフロングという髪型の出来上がりの状態の毛を逆立てたものである。カッティング技術育成のポイントは、このように出来上がりの姿から「垂直に逆立てた状態で頭全体の毛の長さをイメージする能力」と、「描いたイメージ通りのラインになる毛の長さを、くしとはさみで測定して止める能力」をいかに合理的に育てるかにある。
それを実現するものが「坊主頭+紙の目盛り+部分毛」というシミュレータである。
坊主頭に目盛りを貼り付け、意図した位置でとめる練習をする。(写真②)小指ののばし具合で長さを測るのである。はじめは目盛りを確かめながら、だんだんに感覚でわかるようになっていく。そうしたら、部分毛をつけて練習。(写真③) 一般に使われている頭部全体に毛があるシミュレータのように、上にかぶさる毛によって見えなくなるということがないので、早く確実にできるようになる。
くしを動かす道すじも、坊主頭に描かれたラインを基準として練習することにより、しっかりとイメージがつくられる。(写真④)
全体を、技術行動のレベルに分けて、5段階で設計してある。
I,IIは、くしとはさみを自在に操る、言わば手の延長にするという行動訓練の段階である。
III,IVは、くしとはさみが手の延長になっていることを前提とした頭髪操作である。頭髪のあり方を測定して、くしとはさみを反応させていく段階である。
そしてVは、I~IVでつくられた技術行動を使って、全体的な造形行動の訓練の段階である。イメージとしてある全体的な造形に向けて、部分からつくり始め、全体を俯瞰しながら、部分と部分を関連づけていく、そのプロセスの訓練である。
学習コースアウトライン
ユニット | 学習内容 |
I くしとはさみの基本操作 | 1.かまえ方(基本) 2.くしの扱い方 3.はさみの扱い方 4.くしとはさみを持ったかまえ方(基本) 5.はさみの練習 |
II くしとはさみの複合操作 | 1.毛を起こして、くしを止める操作 2.くしを動かしながら、はさみを使う操作 |
III くしによる頭髪操作の基本 | 1.毛流に対するくしの運行 2.後頭部の各部の毛に対するくしの使い方 3.左後頭部各部の毛に対するくしの使い方 4.右後頭部各部の毛に対するくしの使い方 5.各部における組み合わせ動作 |
IV くしとはさみの複合による 頭髪操作 |
1.押し刈り 2.たたき刈り 3.指間刈り 4.逆ぐしの使い方 5.直鋏 (1) 押し手直鋏 6.直鋏 (2) 引き手直鋏 7.直鋏 (3) 片手直鋏・たたき直鋏 8.すき刈り |
V カッティング総合動作 | 1.仕上げの線のつかみ方 2.仕上げの線の作り方(中髪による要領の学習) 3.いろいろな仕上げの線(髪型)をつくる練習 |
1.行動の指示や、動きのポイントを示すスライド | グループに1台ずつ。 学習の進行に合わせて、学習者が自由に操作する。 |
2.モデル行動を示すムービー | |
3.行動の対象となる各種シミュレータ (坊主頭,部分毛など) |
学習者1人に1セットずつ用意する。 |
※2,3の詳細については、教材一覧参照。
学習は、学習者が主体となって自主的に進める。
一人で学習することもできるが、グループによる学習が意欲を育てる点からも構想力を育てる点からも効果的である。グループのメンバーが一緒に考え、一緒に行動して自分たちで技術をつくるという場が、自主的な姿勢を育て、切磋琢磨の関係を生み出し、かつ閉鎖的技術観に陥ることを防ぐ。
教師は、基本的にはグループの一員で、ともに研究し学ぶ仲間であり、必要に応じてよき先輩として行動することが、この学習の成果を一段と増す。
※本システムを授業に取り入れた横浜市立商業高等学校別科での学習の様子は、「映像資料」でご覧ください。また、 教育支援の「■横浜市立商業高等学校理容科」のページには詳細の紹介があります。
《 ムービー 》
(1) くしの扱い方(基本-1) | (11)逆ぐしの使い方 |
(2) はさみの扱い方(基本) | (12)直鋏 (1)押し直鋏 |
(3) はさみの刃の動かし方-くしにあわせて | (13)直鋏 (2)引き直鋏 |
(4) くしの扱い方(基本-2) | (14)直鋏 (3)片手直鋏 |
(5) くしを連続して動かす | (15)すき方の要領 |
(6) 連続刈り(くしとはさみの扱い方) | (16)カッティング動作の実際(1) |
(7) いろいろな部分の刈り方 (1)左側頭部 | (17)カッティング動作の実際(2) |
(8) いろいろな部分の刈り方 (2)右側頭部 | (18)カッティング動作の実際(3) |
(9) 押し刈りの要領 | (19)カッティング動作の実際(4) |
(10) 指間刈り |
《 坊主頭シミュレータ 》
《 部分毛シミュレータ 》