1978年
ソニー(株)の委託により、イランの王立職業訓練校のためのプログラムとして開発したものである。
背景として、職業訓練校に入ってくる生徒たちの、生活における電気および科学技術分野に対する接触度が非常に低く、日本式の講義と実習という形の訓練システムでは、実践に通じる修理マンを育て切れなかったということがある。
そのために、本システムでは、電気および音、電波、電波を受けて音の変換する道具としてのラジオなど、そういったものになじみ、センスをつくるということを強く意図して作成した。
また、故障発見については、一般的なフローチャート方式という、故障発見をするための手順を覚える方法ではなく、回路に現れる音と電圧から電気の流れ方を推測し故障部位を発見するという、故障発見の論理を訓練することをプログラムした。
学習者のレディネスは、中学校卒業程度。学習時間は60時間、1日4時間の学習で3ヶ月位と想定した。
中核コースにおいては、鉱石ラジオ、1石ラジオ、3石ラジオ・・・と段階構成になっているが、このような構成にしたのは、「ラジオとしての全体に対決すること」と、「回路を切り分ける視点」が故障探究の能力を育てるのに重要だと考えたからである。
ラジオの故障探究は、回路における電気の働き方と、音の現れ方から、回路の状態を診断していく行動であるが、いつも全体をふまえて、回路を切り分け、その部分回路ごとに診断のポイントを選び、その現象に応じて故障の原因となる要素をしぼっていくという行動であるからである。
一般に普及しているラジオの回路は6石回路である。6石とはトランジスタ6個の意味である。
6石回路は、(1)受信回路、(2)電波を電気にのせ音波として取り出す回路、それに(3),(4)と2段階で音を大きくする回路が並列に組み合わせられてできている。
技術者はその並列回路を切り分けて、そのどこに故障があるかを見ていく。
そこで、このシステムでは、
(1) (鉱石回路)
(1)+(2) (1石回路)
(1)+(2)+(3) (3石回路)
(1)+(2)+(3)+(4)(6石回路)
と、4段階のシミュレータをつくり、その各段階ごとに。回路における電圧電流の現れ方,音の現れ方を、自分で調べていくようにプログラムした。回路を切り分ける視点をつくると同時に、各回路における電気の働き方に対する感覚を作っていくようにしたのである。
予備コースの電気の学習では、回路の中の抵抗の値によって、電圧がどこにどう現れるのか、いわゆるオームの法則が身体感覚となるまで練習するプログラムや、基板上の回路を読みとる練習を組み合わせて設計した。自分で回路の一部が断線,ショートしたときのシミュレーションもできるようになっている。
種類 | 内 容 | 数量 |
1.テキスト,付属資料など | プログラムテキスト | 約3200ステップ |
付属資料「部品」 | 12ページ | |
ベテランの故障診断記録 | 120枚 | |
VTR教材 | 4種 | |
2.ワークブックなど | ワークブック | 約800ページ |
故障診断記録用紙 | 120枚 | |
3.回路構成用教材など | 回路構成台〈サーキットボード〉 鉱石ラジオ用 1石ラジオ用 3石ラジオ用〈2〉 作業用 |
5台/1グループ |
基板状シミュレータボード(6石ラジオ) | 1台 | |
回路構成用部品 各段階のラジオを組むための部品 モデル用,作業用 |
2セット | |
4.回路の働きを調べるための教材など | 模型教材, 部品分解見本 分解用の実物教材 |
約 50種 |
5.故障状況を作るための教材 故障発見用教材など |
故障症状を調べるための部品 | 約60種 |
故障発見の練習をするための故障ラジオ | 約170台 | |
工具,計器類 | 一式 |
プログラムテキスト 回路構成台 回路構成用部品ボックスなど |
部品分解見本 |
基板状シミュレータボード(6石ラジオ) |
学習は、プログラムテキストのガイドにより、学習者が主体的に進める。
学習は、一人でもできるが、学習意欲の点からも、視点を広げ深めるためにも、グループ学習が望ましい。また、教材を効率よく活用する意味からも、グループが有効である。
本システムは、教材の種類や数が非常に多いので、その管理の面からも、インストラクタは必須の存在である。また、学習の進め方やグループワークについての指導も、重要な役目である。